愛情/love

【奇跡】路頭に迷った末の話#1

 こんにちは。幸福の天鼠(てんそ)ブログの著者、天鼠です。

 私が「うつ病」を患っていた時に起こった、奇跡の出会いについてお話しします。

師走の冷たい朝

 大型のスポーツバッグや、登山用のリュックサックを自転車にぶら下げてフラフラ走る私。今夜寝る場所が決まっていない不安な気持ちと、それとは正反対に清々しく晴れた空が印象的でした。

 うつ病を患って以来、実家から追い出されるのはこれが2回目でした。仕事もない。車もない。頼れる人間もいない。財布には毎月貰える傷病手当金の残りが入っていて、それが全財産でした。

 うつ病になって、私の築いてきた信頼は一瞬で粉々になりました。感情をコントロールする事ができず、すぐに怒ったり泣いたりして、幼児の情緒しか持たない成人男性として生きていました。

 豹変した長男を受け入れられず家族は苦しみました。そして私を追い出す事で、苦しみから逃れようとしました。

 私は行く当てもなく路頭に迷いました。そこで更に人間の冷たさを味わう事になり、生きる希望を無くしていきました。

不動産屋の対応は

 今でも忘れられない程、この時の私を傷つけました。自転車に沢山荷物を載せた怪しい人間に、まともに接客しない事は当然と言えば当然ですが。

 私は一番安い不動産情報が載ったファイルを渡され、カウンターに1人放置されました。「お前に契約できる物件なんてないんだよ」と言わんばかりの対応でした。

 隣にいた新婚夫婦と、不動産会社の担当者が話をしているのが、嫌でも耳に入ってきました。新婚夫婦には明るく輝く未来が、私には暗く沈んだ未来が確実に訪れる様に思えました。

 3軒の不動産屋を回りましたが、まともに対応してくれる不動産屋はありませんでした。他の客とは違い、自分にはお茶すら出して貰えない事にひどく傷つきました。賃貸の契約はできないまま、今夜寝る所を当てもなく探しました。

 今まで生きて来た中で「自殺」を真剣に、前向きに考えた時でした。もう私には生きて行く力は残っておらず、相談する人も引き留めてくれる人もいませんでした。

生きる事をあきらめかけた時

 一軒のさびれた不動産屋が視界に入りました。不動産屋に嫌悪感を感じていた私にとって、その不動産屋に行かない事はごく自然な反応でした。ところが足はいつも帰っている自宅の様に、自然に不動産屋に進んで行きました。

 その不動産屋で出会ったのが、不動産屋とつながったアパートの管理人さんでした。50代ぐらいの優しそうな女性でした。言葉遣いがとても穏やかで、のんびりしていました。私はその声と人柄に、一瞬で癒されてしまいました。自殺など考えていたのがバカらしいくらいに。

 管理人さんは私の詳しい事情など聞かず、その日のうちに部屋を貸してくれました。何の信用もないホームレスに、躊躇なく手を差し伸べてくれたのです。こんなに心の温かい人に会った事はありません。こんなに心が温かくなった事はありません。気付かれない様に必死に隠しましたが、私は涙を流していました。

 管理人さんとの出会いは本当に奇跡でした。本当に本当に奇跡でした。死へ向かう真っ暗な私の足元を、最後の最後で明るく照らし導いてくれました。家族や心無い人間に打ちのめされた私に、もう一度人間を信じる機会を与えてくれました。

 管理人さんとの出会いは「あなたはまだまだ生きられるよ」と優しく私に言い聞かせる様でした。

 管理人さんとは、私がアパートを去るまでの間にささやかな交流があり、何かある度にお世話になりました。(続く)