知恵/wisdom

【怪奇】路頭に迷った末の話#2

 こんにちは。幸福の天鼠(てんそ)ブログの著者、天鼠です。

 前回の続きです。寂れたアパート暮らしで、不思議な事が起こりました。それを中心に書いています。

アパートでの生活

 新幹線のぞみの停まる駅から徒歩5分の場所に、そのアパートはありました。雑多な街の中でひっそりと隠れる様に。築40年程の古い寂れたアパートでした。

 部屋は和室6畳で風呂トイレ共同、家賃は2万円でした。部屋はボロボロでしたが、それが今の自分と重なって愛着を感じました。

 部屋の扉を開けたら向かいがトイレで、常にクサい匂いがすぐそこまで迫っていました。風呂は「ここは下水道ですか?」というぐらい荒れていました。入っている住人もあまりいない様でした。

 貧しい生活が始まりましたが、お金がないことで悩みはしませんでした。たまたま手に入れた石油ストーブで料理をしました。缶に水と米を入れて、石油ストーブの上で炊きました。サバなどの缶詰をおかずにしていました。

 傷病手当金が入った日には、松屋で豚丼を食べました。紅ショウガを山盛り入れて、満腹中枢を刺激しました。限られた資金を大切に、なるべく出費を減らして生活していました。

 精神的に安定せず、とても仕事に就くことはできませんでした。貧乏でしたが何にも縛られず自由に暮らしていました。早朝から近くの公園をランニングしていました。よく瀬戸の花嫁をハーモニカで吹いていました。流木を探しに自転車で海まで行き、流木を部屋に飾りました。自由な時が私を癒していました。

 一度だけ死にそうになった事がありました。朝起きたら体が動かず、石油ストーブが黒煙を上げているのが見えました。命の危険を感じ、動かない体にムチ打って携帯電話で母に連絡しました。その後、実家の温かい部屋で丸一日眠り続け回復しました。

 部屋はすき間だらけで、外と同じぐらいの気温でした。寒さで凍死しそうになったのか、一酸化炭素中毒になったのかは分かりません。一酸化炭素中毒の線で考えて、すき間だらけの部屋が私を助けてくれたのだと思うようにしています。

アパートの住人

 このアパートには、何か影のある人間ばかりが住んでいました。

 隣の隣には巨体の謎多き中国人が住んでいました。話をした事はありません。アパートのネズミを捕って食べているという伝説が語り継がれています。

 入れ墨モノもいました。確実に世間の目から逃れ様としています。訳アリです。なるべく関わらない様に、入れ墨モノが風呂に入る時間は避けて入浴していました。

寂れたアパートに現れる美女

 最後に紹介する人は、この世のモノではない方かもしれません。寂れたアパートになぜか美女がいたのです。私が美女を見たのは2回だけです。

 ある日入浴しようと風呂に行ったら、中から鍵が掛かっていて入れませんでした。扉の曇りガラスから、薄暗い脱衣所の中に居る人がぼんやりと見えました。腰上まである艶やかな黒髪、色白で華奢な体。確実に若い女性でした。私は違和感を感じましたが、好奇心を抑えていったん自分の部屋へ戻りました。

 次の日も同じ時間帯に風呂へ行きました。そうすると風呂へとつながる真っ暗な廊下の向こうから、白い影がこちらに向かって進んできます。身長154cm、体重41kg、Cカップの女性と私はすぐに推測しました。昨日脱衣所に居た女性だと感覚的に分かりました。そしてすれ違う瞬間、長い髪の隙間から一瞬こちらをチラッと見ます。今までに見た事の無い、怖いぐらい綺麗で幼さの残る女性でした。

 その女性には、それっきり1度も会うことが叶いませんでした。会いたくて、出会った時間にわざとアパートを歩き回りもしました。2度しか見ていない、話した事も無い女性に恋い焦がれていました。

 後日、不思議なことが3点浮上しました。1点目は、風呂の扉に鍵など付いていなかったこと。2点目は、アパートに女性は1人も住んで居なかったこと。3点目は、私が女性に会った日を境に、誰も風呂を利用しなくなったことです。

 それと時を同じくして、アパートの私の部屋まで警察が職務質問に来ました。何があったのかは一切教えてくれません。私は何時に何をしていたかなどの質問に答えただけでした。

 脳裏に焼き付いて離れないあの美貌。私はその呪いで「腰上まである艶やかな黒髪」「色白で華奢な体」「身長154cm」「体重41kg」「Cカップ」の女性を無意識に探し続けています。

 あの女性は一体何者だったのか?アパートで何があったのか?謎のまま私は人生を終えると思います。

週に2回の職務質問

 当時私は「ツバの付いたニット帽をかぶった変なヤツ」として生きていました。週に2回も職務質問を受けた経験があります。それぐらい挙動不審だったのかもしれません。

 アパートの近くの警察には、目を付けられていたと思います。目立たない様にゴミ箱を物色していましたが、それが良くなかったのかもしれません。宝探しはやめました。

アパート生活の終わり

 管理人さんとの出会いから、半年程でアパートを後にしました。管理人さんと出会えた事は本当に奇跡でした。私の命の恩人です。

 このアパートでは、普通の世界では味わえない経験ができました。うつ病で第六感が敏感になった私に、居心地の良い一風変わった世界を与えてくれました。霊現象の類は何度も経験して来たので、機会があればまた紹介します。

 この記事を書き始めて、当時の事を沢山思い出しました。その頃の私は管理人さんに憧れていました。管理人さんの様な温かい人間になるべく努力していました。今の自分はどうなのか?まだまだ管理人さんには追いつけそうにありません。(終)